APEC北京会議2014が示す今後の世界とは?

偶然の一致か、この200年で、「14年」は歴史の大きな転換点となる出来事が起きています。

1814年9月、オーストリアの首都ウィーンにおいて全ヨーロッパの代表が出世しての国際会議「ウィーン会議」が開催されました。

翌年15年まで続くこの会議では、ナポレオン戦争後のヨーロッパの体制が決定されて新たな「国際秩序」の構築がなされることになります。

そして、1914年6月、ボスニア首都サラエボでのオーストリア皇太子暗殺事件を契機として、第一次世界大戦が勃発。

主戦場となったヨーロッパ以外の地を含めて多数の人が争った、人類史上初の世界戦争となりました。

この影響は、後の第二次世界大戦に受け継がれ、さらには現在にいたっているといえます。

そして、今年、2014年。

ウクライナ紛争、イスラム過激派組織「ISIS(イスラム国)」の勢力拡大といった不安が世界を覆うなか、中国・北京で米・中・露とアジア・太平洋地域の国21カ国が参加する国際会議「アジア・太平洋経済協力会議(APEC)」が11月7日より11日まで開催されました。

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(出典:外務省HPより)

APEC自体は加盟国持ち回りで会議が開かれているので、特に珍しいものではありません。

しかし、昨今の状況や繰り広げられた議論をみていると、今回開催された会議はただの経済協力会議に終わらず、10年後に歴史を振り返ったとき、「あの会議が転換点だったのでは?」と思われるような、非常に重要なものだったのではないでしょうか。

 

パクス・アメリカーナの終焉と新たなる「アジアの盟主」誕生?

この会議が行われる直前、アメリカでは「大統領信任投票」という性格を備えている上下両院の中間選挙が行われました。

オバマ大統領率いる与党・民主党は大惨敗し、政治の主導権は野党・共和党が握りました。

イスラム国の件やウクライナ紛争では有効な切り札がなく、出口の見えない先行きに対する不安が米国民の間に広がっているともいわれ、世界を席巻したアメリカの威信低下が囁かれています。

そして、今回の会議。

「パクス・アメリカーナ」の終焉とそれに代わる秩序の構築を宣言するかのように、この会議開催の前後から中国は立て続けに既存の体制を変える構想を打ち出してきました。

インフラ銀行合意 中国、新金融秩序に挑む

中国やインド、東南アジアなどの21カ国は24日、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立に基本合意した。

来年末までの設立をめざし、本部は北京に置く。

アジアの遅れているインフラ整備を進め、中期的な域内経済の成長率を高める(中略)。

日本経済新聞 2014年10月25日より抜粋作成


「シルクロード経済圏」構想 中国、4.5兆円超の基金

中国が400億ドルの「シルクロード基金」を創設すると表明した。

周辺地域の鉄道やパイプライン、通信網などのインフラ整備を援助する。

(中略)中国メディアは習指導部のインフラ外交を「中国版マーシャルプラン」と呼ぶ。

日本経済新聞 2014年11月9日より抜粋作成

 

議長国としてホスト役を務めた習近平国家主席は、会議開始の際にも米・オバマ大統領とロシア・プーチン大統領を左右に伴い入場するなど、米ロ仲介のポーズを示すなど、その存在を誇示しました。

また、交渉が難航しAPECの直前まで会合を続ける米国主導によるTPP(環太平洋経済連携協定)を尻目に、中国を含めたAPEC諸国全体が加わるFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構想実現を訴え、米国を牽制することも忘れませんでした。

各国メディアが映す首脳の姿も、選挙敗北直後でレームダックが確実なオバマ氏と経済大国の元首としての姿をアピールする習氏とでは、その力強さにおいて、今後の米の影響力がどれほどのものになるのか……という一種の悲壮感さえ漂っていました。

 

中国による「自由貿易圏」の構築~アジアインフラ投資銀行とシルクロード経済圏構想~

AIIBとシルクロード経済圏

2013年3月に南アフリカのダーバンで開かれたBRICsサミットにおいて、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカからなるBRICs五カ国は、新開発銀行の創設で合意しました。

インフラ整備等に融資を行う国際開発金融機関としては世界銀行やアジア開発銀行などが既に存在しています。

しかし、その運用においてはいずれも日米などの大国主導という面があることは否定できず、それらの国の意向に関わることなく開発のための融資が受けられる(裏を返せば自らの影響力を行使できる)機関の設立を望んでいました。

そんななかで生まれることになった通称「BRICs開発銀行」ですが、その出資比率について、中国の台頭を良しとしないインドなどの主張で、一国のみが突出しない形(最初の出資金500億ドルは、各国が平等に100億ドルずつ拠出する)に落ち着くことになりました。

日本を抜いて、世界第二位の経済大国となった中国からしてみれば(口には出さずとも)面白くない話です。

これでは、せっかくアメリカを差し置いてつくった新機関への影響力行使が、限定的になってしまいます。

そこで登場したのが、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」です。

BRICs銀行とは異なり、中国主導で話を進めていることからかなりの影響力行使が期待できます。

もっとも、BRICs銀行の規模だけでは世界各国で進めようとしているインフラ整備融資への資金が足りないことは明らかでしたので、これらを含めたインフラ整備のための補完機構であるとの位置付けもアピールされています。

これに対して、これまで世界の金融を主導してきたアメリカは猛反発しました。

これらの機関を利用して、中国が自国の影響力を世界に浸透させていくのではないか、との疑念を抱いたわけです。

また、アジア開発銀行(ADB)を事実上取り仕切る日本も、同様にAIIBに疑問を呈します。

これまでアジアのインフラ整備を支えてきたADBとAIIBの役割分担やその理念が明確でない、のがその理由だとしています。

確かに、これと平行して発表されている「シルクロード経済圏構想」と合わせてみても、中国が資源を輸入している中東・アフリカ諸国と、最大貿易先であるEU圏をつないでいくという意図が垣間見えます。

ただ、前述しましたが、既存機関である世界銀行などへの新興諸国の不審は根強いものがあるのも事実で、その国の「人権問題」などとセットで融資を決める西側スタイルに、思うような資金確保ができないという声も多々あります。

そんな国々からは今回の機関は歓迎されており、現に22カ国から加盟が申請されています。

 

日米の「反撃」

これらの各国の動きに対して、日米も反撃します。

アメリカは、当初参加を検討していた韓国、オーストラリアに対して参加を見合わせるよう促しました。

また、アジア開発銀行を取り仕切っている日本は、これらを活用した新たなインフラ投資の枠組み新設を検討。

APEC後にオーストラリア・ブリスベンで開催されるG20(20カ国・地域首脳会議)で新基金の創設を発表しました。

日豪、インフラ新基金  アジア向け、中国に対抗

日豪などの出資で2015年に1億5千万ドル規模で発足し、民間の投資を募る。

資金はアジア開発銀行に預託する。

日本経済新聞 2014年11月15日より抜粋作成

また、麻生財務相は、同地で世界銀行のキム総裁と会談した際に、途上国インフラ整備のために5500万ドルの資金拠出することを表明し、中国の行動を牽制しました。

アジア・太平洋圏が舞台となるだけあり、日本が中心となり中国の動きに対抗する形となっています。

 

経済圏対立の裏に……

このように、自由貿易圏やインフラ整備などの面で、日米VS中国の「経済対決」の様相が見え始めていますが、実は、この構想は単に経済だけに留まらないのが厄介なところなのです。

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近年、中国海軍の「海洋進出」が問題となっています。

今年に入って、フィリピン、ベトナムと領有権を巡り海上衝突が発生しています。

さかのぼること2007年には、訪米した中国軍の将官がアメリカに対し、米中による「太平洋分割」まで提案し、その勢力拡大に各国が神経をとがらせています。

現在中国軍の戦略ラインと知られているのが、「第一・第二列島線」及び「真珠の首飾り戦略」と言われているものです。

空母機動部隊を中心とする米第七艦隊に対する「防衛ライン」として認定されているのが二つの列島線で、これらの海域の制海権を確保することで自国の安全保障を確実にしようというものです。

また、真珠の首飾りといわれる、華南から中東、アフリカに至るシーレーンには、各地に中国海軍が進出し、インド洋のモルジブやパキスタンのグワーダル、スリランカのハンバントダなどには、海軍艦艇が寄港出来る港の建設が中国資本によって行われています。

 

インド洋
(中国資本によるアフリカ開発 日本経済新聞その他の記事より作成)

それらと一体となるかのように、現在アフリカで中国資本による鉄道建設や資源開発が急ピッチで行われています。

内陸資源狙う中国 アフリカ横断鉄道、18年にも実現

中国主導で進むアフリカ大陸横断鉄道が2018年にも実現する。

英シンクタンクの調査員は「中国は旧宗主国の英、仏、ポルトガルなどが敷いたアフリカ貿易の構図を塗り替えようとしている」と話している。

日本経済新聞 2014年8月23日 より抜粋作成

中国はインフラ建設を援助し、鉄道を敷設してレアメタルなどの鉱物資源の確保を目指しています。

 

これからの世界は……

陸に鉄道を敷き、物流を確保。

各地に港湾施設を建設して、物流拠点とする。

これらを有機的に結びつけ、軍がこれを保護し、勢力を伸張していく。

これは近代に入ってどこの国家も行ってきた戦略です。

これはイイとか悪いとか、という問題ではありません。

自国の権益を守りつつ、自国の力を伸ばしていく、というのは国家という組織が行う当然の行為です。

それぞれの国家がこの行為を「いかに自らの犠牲を少なく」「最大限の効果を発揮」するか、常に検討し、実行しています。

それらの「力のベクトル」がある方向へ向かっていき、別の国のベクトルとぶつかったとき、その時「戦争」となります。

第一次世界大戦の遠因となった一つに、ドイツによる3B政策(ベルリンからビザンチン、バクダードを結ぶ鉄道からなる戦略ライン)とイギリスによる3C政策(カイロからケープタウン、カルカッタを結ぶ戦略ライン)の衝突があげられます。

現状、中国のベクトルが向かう先には、イスラム国問題、中東紛争地域、さらにウクライナなどのNATOとロシアのベクトルがぶつかる地域が控えています。

このベクトルの衝突は我が国も当然無縁ではありません。

「セキュリティーダイヤモンド」といわれる米・豪・印を結ぶ戦略ラインの構築に日本政府は取り組んでいます。

一部には「軍国主義復活」とか「アジアを再び戦火に」といった論調もありますが、前述したとおり国家であれば自国及び自国民、そして権益を守るためになんらかの戦略をたてるのは当然のことであり(その戦略の結果、どうなるかは別ですが)、構想を行う行為そのものを否定することは、自殺を勧めることとなんの変わりもないことといえます。

 

少なくとも次の大統領選挙が行われる2年後まで、アメリカの外交・政治に期待できることは酷なところがあります。

望むと望まざるとに関わらず、この国はそのアメリカに代わり(不謹慎な言い方かもしれませんが)「世界ゲーム」を行うことになります。

ただ、自国とその国民を守るのは当然ですが、他国民は虫けらで死んでも当然などといった戦略をとるような国にはしてはいけないことは、前の戦争で日本が学んだ事だと思います。

それを受け、「自国」さらに「他国」が納得できるような戦略をたてるという、非常に難しい宿題をこれから私たちはしなければなりません。

その覚悟が問われています。

その意味でAPEC2014は、新たな時代の幕開けとなる会議、といえるように思えます。


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